この記事のまとめ
妊娠中のお母さんは、赤ちゃんが健やかに育ってくれているか不安に思うこともあるでしょう。羊水には母体と胎児を守る役目がありますが、実際にどのような働きを担っているか知らない方もいるかと思います。当記事では、羊水の具体的な役割や成分・構造を紹介するとともに、羊水に関連したトラブルを紹介します。NIPT(新型出生前診断)と羊水検査の関係についても解説しますのでぜひ参考にしてください。
羊水とは
羊水とは、妊娠中のお母さんの子宮内を満たしている液体のことです。羊水は子宮内の環境を整える役割があり、出産までの間、赤ちゃんがお腹の中で元気に成長していくために欠かせません。妊娠初期は無色透明ですが、妊娠後期には胎児腎臓からの尿産生や肺からの分泌液により乳白色に変わっていきます。また、子宮内に胎便が生じることで羊水が混濁することもあります。
羊水の役割
羊水には赤ちゃんをさまざまな衝撃や刺激から守る役割があります。子宮内が羊水で満たされた状態であれば、子宮の収縮によって胎児にかかる衝撃や圧力を均等に分散させられます。また、外界や母体の温度変化を和らげる作用もあり、胎児が一定の体温を維持するためにも必要です。羊水は母体を守る役割も持っており、胎動が直接母体に伝わらないようにする働きにより痛みを緩和しています。
羊水の成分と構造
羊水中に含まれている成分は、各種電解質・ブドウ糖・アミノ酸・たんぱく質・脂質・尿素・尿酸・クレアチニン・ビリルビン・さまざまなホルモン・成長因子・酵素などです。羊水には赤ちゃんが成長するために必要なさまざまな成分が含まれています。
羊水にまつわるトラブル
赤ちゃんの健やかな発育に欠かせない羊水ですが、さまざまな疾患の影響によりトラブルが発生する場合があります。こちらでは、羊水過多・羊水塞栓症・羊水過少について詳しく解説します。
1.羊水過多
羊水過多とは、その名のとおり羊水が過剰に分泌されることです。通常、羊水量は妊娠34週まで少しずつ増加していき、その後は少しずつ減少していきます。産生される一方で胎児の嚥下と胃腸から吸収されるため、羊水量は一定に保たれるのです。こちらでは、羊水過多の症状・原因・治療方法を紹介します。
症状
羊水過多は無症状のことも多く、検査するまで気付かない妊婦さんもいます。しかし、重度の羊水過多では、呼吸困難や痛みを伴う早期子宮収縮を生じる場合があります。
羊水過多の合併症は主に以下の通りです。
- 早期子宮収縮による切迫早産
- 前期破水後の常位胎盤早期剝離
- 胎位異常
- 母体の呼吸障害
- 子宮弛緩症
- 臍帯脱出
- 分娩後出血
- 胎児死亡
原因
羊水が過剰に溜まってしまう原因として「羊水の産生が増える」「羊水の吸収が減る」の2つが考えられます。
羊水の産生が増える原因として考えられる主な理由は以下の通りです。
- 母体糖尿病や胎児内分泌疾患、胎盤血管腫による尿量産生の増加
羊水の吸収が減る原因として考えられる主な理由は以下の通りです。
- 食道閉鎖や十二指腸閉鎖など上部消化管閉鎖が発生する先天性異常や機能的嚥下障害による羊水の吸収障害
そのほかにも、無脳症や髄膜瘤、腹壁破裂などによる胎児からの液体成分の漏出も原因として考えられています。羊水過多の半数以上は突発的に生じ、自然に軽快することもあります。
治療方法
重度の痛みや早期子宮収縮が生じる場合は、羊水量の減量を行う必要があります。突発的に発生したり自然に軽快したりと、分娩後も原因が分からない場合もあります。羊水過多が生じたら、まずは胎児の精査を行い早産の徴候に注意しつつ経過観察を行いましょう。
場合によっては、人工的な羊水除去を行います。現時点で、除去する羊水量や速度について明確な決まりはありませんが、約1Lを20分かけて減量する方法が勧められています。
2.羊水塞栓症
羊水塞栓症とは、羊水がお母さんの血液中に流れ込むことで生じる肺毛細管の閉塞を原因とする肺高血圧症やそれに伴う呼吸循環障害を病態とする疾患です。通常、妊娠後期に起こりやすいとされていますが、妊娠13~24週の妊娠中絶の際にも起こる可能性があります。こちらでは、羊水塞栓症の症状・原因・治療方法を紹介します。
症状
羊水塞栓症は一般的に分娩中や分娩直後に引き起こされます。症状は主に以下の通りです。
- 突然の心停止
- 突然呼吸困難
- 頻脈
- 頻呼吸
- 低血圧
- チアノーゼ
- 低酸素症
- 肺の断続性ラ音を伴う呼吸不全など
また、初期症状としては強い腹痛と胎児機能不全がみられる場合があります。
原因
羊水塞栓症のリスクを上昇させる原因として考えられている症状は以下の通りです。
- 帝王切開
- 多胎妊娠
- 母体の高齢化
- 常位胎盤早期剝離
- 前置胎盤
- 子宮破裂
- 羊水過多
- 陣痛誘発
- 鉗子分娩
- 腹部外傷
- 頸管裂傷
危険因子を保有する母体が必ず発症するわけではありません。なぜ一部の女性のみに発症するのかは病態生理学的にもまだ理解されておらず、上記紹介したリスク因子は一般的に考えられる可能性であることを理解しておいてください。
治療方法
羊水塞栓症には症状緩和のための支持療法が行われます。赤血球や新鮮凍結血漿、凝固因子の輸血や換気・循環の補助を行い、場合によっては強心薬が必要です。発症後すぐに鉗子・吸引分娩を行うことで母体の転帰が改善する可能性があります。
3.羊水過少
羊水過少とは、その名の通り子宮内の羊水量が通常よりも不足している症状のことです。羊水量の確認は、超音波検査を利用して行われます。羊水量を管理するためには、綿密なモニタリングと継続的な超音波検査による確認が欠かせません。こちらでは、羊水過少の症状・原因・治療方法を紹介します。
症状
妊婦さんが感じる症状はほとんどありません。胎動が減少する感覚が多少あるくらいです。
羊水過少の合併症は主に以下の通りです。
- 子宮内胎児発育不全
- 帝王切開
- 胎児死亡
羊水過少が妊娠初期から生じた場合の合併症も紹介します。
- 四肢拘縮
- 肺成熟の遅れや不完全な肺成熟
原因
羊水過少の原因として考えられている症状は以下の通りです。
- さまざまな母体疾患による胎盤機能不全
- 薬剤
- 過期妊娠
- 尿産生量の減少を引き起こす胎児の腎臓疾患(腎無形成、無機能腎など)
- 子宮内胎児発育不全
- 胎児死亡
- 胎児染色体異常
- 破水
治療方法
胎児の発育状況を確認するために、少なくとも4週毎の超音波検査が勧められています。発育不全がみられる場合は2週毎が望ましいとされています。羊水量を表すAFIは、少なくとも週1回の計測が必要です。
合併症を引き起こしていない場合は、週1回のノンストレステストやバイオフィジカルプロファイルによる胎児モニタリングと36〜37週6日での分娩が推奨されています。
NIPT(新型出生前診断)と羊水検査の関係
妊娠中の方が受ける検査として、NIPT(新型出生前診断)や羊水検査などがあります。どちらも母体と胎児の健康を確認するために欠かせない検査ですが、どのような違いがあるか詳しくは知らない方も多いのではないでしょうか。
こちらでは、NIPTと羊水検査それぞれの役割を紹介しますので、違いを理解するための参考にしてください。
NIPT(新型出生前診断)は染色体異常のスクリーニング検査
NIPT(新型出生前診断)は、妊娠中の母体から採血した血液を用いて行われる出生前遺伝子学的検査です。お母さんの血液には赤ちゃんのDNAが含まれているため、赤ちゃんへ直接的なダメージを与えることなく胎児染色体異常の検査ができます。
NIPTは妊娠約6週以降からと早い段階で検査可能です。しかし、スクリーニング検査のため陽性であっても断定はできないため、陽性結果が出た場合は確定診断である羊水検査を受けることを推奨しています。
羊水検査は染色体異常の確定検査
羊水検査は、針を直接妊婦さんのお腹に刺して羊水を採取して行う染色体異常の検査方法です。精度の高い検査ですが、母体に針を刺すため感染症や出血、羊水の漏出などのリスクが伴います。
また、羊水検査は子宮内が十分な量の羊水で満たされていないと採取できないため、検査はおよそ妊娠15~16週以降からとされています。精度は非常に高くほぼ100%とされているため、NIPT(新型出生前診断)を受けて陽性と判断された場合に、改めて羊水検査を受けるとよいでしょう。
ヒロクリニックNIPTではNIPT(新型出生前診断)が行えます
羊水はお母さんと赤ちゃんを衝撃や圧力から守る働きがあります。羊水にかかわるトラブルには、羊水過多や羊水塞栓症、羊水過少などがあります。また、NIPT(新型出生前診断)と羊水検査の関係や内容についても解説しました。
ヒロクリニックNIPTでは、NIPT検査が可能です。陽性となった場合は羊水検査が可能な提携検査会社を紹介いたします。NIPTはスクリーニング検査ですので、陽性の結果が出たら確定検査である羊水検査の受診をおすすめします。NIPTの方が妊娠してから早い段階で検査が可能なため先に受けておき、その後羊水検査を受けておくと安心できるでしょう。
【参考文献】
Q&A
羊水には母体と胎児を守る役目がありますが、実際にどのような働きを担っているか知らない方もいるかと思います。当記事では、羊水の具体的な役割や成分・構造を紹介するとともに、羊水に関連したトラブルを紹介します。
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Q羊水検査では何が分かるのですか?羊水検査は染色体異常や胎児の障害リスクがあるかどうかを調べる検査です。
検査によって事前に異常を確認することで、遺伝カウンセリングの専門家に相談したり、治療が行える専門病院に転院したりと早期の対策にお役立ていただけます。 -
Q羊水検査にはどのくらい時間がかかりますか?羊水検査自体は羊水を採取するだけのため数分で終了します。
ただし、採取前にエコーで赤ちゃんの様子を確認するため、採取するまでに多少時間がかかる場合があります。
また、検査後は30〜40分ほど安静にする必要があるため、全体で1時間程度かかるとみておきましょう。
Article Editorial Supervisor
Dr. Toshiaki Kawano
Head Doctor of Hiro Clinic NIPT Hakata
Board Certified Obstetrician and Gynecologist,
Japan Society of Obstetrics and Gynecology
As an obstetrician and gynecologist for more than 25 years, he has dealt with pregnant women and childbirth mainly in Kyushu. As the head doctor of Hiro Clinic NIPT Hakata, he is working daily to raise awareness of NIPT (New Non-invasive Prenatal Testing) to make it a more commonly performed test.
Brief History
1995 – Graduated from Kyushu University Faculty of Medicine
1995 – Kyushu Kosei-Nenkin Hospital, Department of Obstetrics and Gynecology
1996 – Obstetrics and Gynecology, Kyushu University Hospital
1996 – Sasebo Kyosai Hospital, Obstetrics and Gynecology
1997 – Department of Obstetrics and Gynecology, Arumeida Hospital, Oita City County Medical Association
1998 – Deputy Chief of Obstetrics and Gynecology, Miyazaki Prefectural Miyazaki Hospital
2003 – Medical Director, Department of Obstetrics and Gynecology, Jikei Hospital
2007 – Deputy Director, Department of Medical Care, Japanese Red Cross Kumamoto Health Care Center
2018 – Department of Gynecology, Sakura Juji Fukuoka Hospital
2020 – Head Doctor, Hiro Clinic NIPT Hakata
Qualifications
Board Certified Obstetrician and Gynecologist, Japan Society of Obstetrics and Gynecology
Certified Mammography Reading Doctor
Certified Sports Physician by the Japan Sports Association
Certified Clinical Training Advisor, Ministry of Health, Labour and Welfare
Board Certified Specialist, Japanese Society of Anti-Aging Medicine